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愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センター
第18回アジア歴史講演会 「鉄の起源の探究」成果報告

 青銅器時代の西アジア 鉄の起源と展開
「金属器時代の黎明 −価値と技術- 」
 
愛媛大東アジア古代鉄文化研究センター 松山・愛媛大 2015.2.14. 
1503tetsunokigen00.htm by Mutsu Nakanishi
昨年7月に話を聞いたカマン・カレホユック遺跡から出土した世界最古の人工鉄の発掘など
西アジア周辺で実施されている愛媛大学を中心とした「鉄の起源とその展開」の共同発掘調査研究。
2月14日 その研究成果を中心とした愛媛大東アジア古代鉄文化研究センターのアジア歴史研究会
「金属時代の黎明−価値と技術-」が松山で開催されるとの案内をいただいた。
「西アジアで発掘調査研究が進むヒッタイト以前の鉄塊。新しい展開を見せるのか?
 鉄の起源にかかわる鉄製と錬銅製錬とのさらなる具体的関係が見えてくるのか??」
  興味深々で2月14日 松山の愛媛大学で開催された講演会に出かけました。

【mp4スライド動画】
≪聴講内容整理資料File by Mutsu Nakanishi≫
鉄の起源と展開「金属器時代の黎明 −価値と技術-」

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 by Mutsu Nakanishi
第18回アジア歴史講演会 「鉄の起源の探究」成果報告
鉄の起源と展開「金属器時代の黎明 −価値と技術-」
≪ 聴講内容の要旨≫
◎講演1 古代オリエント博物館 研究員 津本英利氏「西アジアにおける初期鉄器研究史」
◎講演2 愛媛大非常勤講師 畑守泰子氏「古代オリエント世界における金属利用と交易」
◎講演3 愛媛大教授・東アジア古代鉄文化研究センタ長 村上恭通氏「銅・鉄の出現と初期拡散

  18回アジア歴史講演会予稿集「金属時代の黎明  -価値と技術-」 2015.2.14 
          愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センタ−


2013年カマン・カレホユック遺跡の発掘調査で出土したヒッタイト以前世界最古級の小鉄塊と鉄滓
「古代ユーラシア大陸のアイアン ロード」研究報告会で
昨年7月に話を聞いたカマン・カレホユック遺跡から出土した世界最古の人工鉄の発掘など西アジア周辺で実施されている「鉄の起源とその展開」の共同発掘調査研究。
BC12世紀頃 西アジアトルコ アナトリア高原のヒッタイトは塊錬鉄法で製鉄を行っていたことから、人工鉄の起源はヒッタイトというのが定説だった。ところが、鉄の起源の探究を求めてユーラシア大陸各地で共同発掘調査を進める愛媛大学の村上恭通教授らの発掘調査で、1昨年そのアナトリア高原のカマン・カレホユック遺跡のヒッタイト以前の地層から鉄滓や小鉄塊が出土し、世界最古の鉄として大きな話題となった。   (中近東文化センターのアナトリア考古学研究所などとの共同調査)
そして、昨年7月大阪での「古代ユーラシア大陸のアイアン・ロード」研究報告会で 愛媛大学村上教授らは 西アジア周辺で実施されている「鉄の起源とその展開」の共同発掘調査研究成果として、カマン・カレホユック遺跡のヒッタイト以前の地層から出土した小鉄塊は
「鉄銅鉱石の鉱滓から抽出されたものではないか?」との説が有力と報告。
溶接冶金のフィールドにいた私に取っては、鋼の溶接の凝固過程での割れ(高温割れ・凝固割れ)の第一原因として鉄とは溶け合わぬ低融点元素である「銅と硫黄」 が頭にこびりついている。
人工鉄の起源として「鉄の時代の前にある青銅器時代に人工鉄が銅製錬の過程で副次的に造られた」との説には「極めて説得力がある」と興味深々。
「銅」と「鉄」は溶融状態でも 互いに溶け合わない「水と油」でありながら、含鉄銅鉱石など銅鉱石と鉄鉱石はいつも近くにある存在。
銅・鉄の製錬は温度こそ異なるが、その製錬法は炭素による同じ還元製錬プロセスが用いられる。
また、比較的低い温度で溶ける銅に対し、高温でないと溶けない鉄の性質も含め、この鉄と銅は比較的容易に2相に分離しやすく、これらの性質を考えると、「銅の製錬過程で鉄が分離されて見つかる可能性は極めて高い」と思われる。
たたら製鉄の源流に何らかの影響があたえたのではないか?と
以前から気になっていた銅製錬である
久しぶりの松山 路面電車に乗って松山城を眺めながら、
愛媛大学のキャンパスへ。 .
来るたびに愛媛大学のキャンパスがきれいに整備されて
ゆくのがうれしい。
卒業式前 キャンパスには卒論発表会の案内が張られ
ていて、学生たちの張りつめた気が伝わってくる。
いつもとはちょっと違った雰囲気。
私にもこんな時があったと思いだしながら会場へ
 
 
 

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第18回アジア歴史講演会 「鉄の起源の探究」成果報告  2015.2.14.
≪聴講要旨≫ by Mutsu Nakanishi
鉄の起源と展開「金属器時代の黎明 −価値と技術-」
 
第18回アジア歴史講演会 「鉄の起源の探究」成果報告
鉄の起源と展開「金属器時代の黎明 −価値と技術-」
≪ 聴講内容の要旨≫
◎講演1 古代オリエント博物館 研究員 津本英利氏「西アジアにおける初期鉄器研究史」
◎講演2 愛媛大非常勤講師 畑守泰子氏「古代オリエント世界における金属利用と交易」
◎講演3 愛媛大教授・東アジア古代鉄文化研究センタ長 村上恭通氏「銅・鉄の出現と初期拡散

  18回アジア歴史講演会予稿集「金属時代の黎明  -価値と技術-」 2015.2.14 
          愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センタ−

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    今回の講演会はトルコ カマンカレホユック遺跡でヒッタイト以前の世界最古と思われる小鉄塊・鉄滓が出土したことを踏まえて、
    下記項目が主要討論テーマだった。
 
1.
ヒッタイト以前の金属器黎明の青銅器が中心だった時代に この西アジアで鉄器がどのような形で出現してきたのか? 
トルコ カマンカレホユック遺跡以外で続々発掘調査が進むヒッタイト以前の鉄器の分布とその用途。
それらに基づく青銅や他の金属(金・銀)と鉄の相対価値変遷
2.
トルコ カマンカレホユック遺跡でのヒッタイト以前の小鉄塊・鉄滓の出土をベースに
愛媛大村上恭通教授ら・提唱する「この西アジアで銅製錬の副産物としての人工鉄起源説」
3.
この金属器黎明の時代 青銅器から鉄器への移行をもたらしたインパクトは何か
そして この西アジアから東への伝播経路 ユーラシア大陸メタルロードの形成 等々
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     最近の西アジアの遺跡発掘の調査研究をベースに、今までの定説「ヒッタイト鉄起源説」が大きく変わろうとしている。
     鉄の起源からユーラシア大陸東遷の道にまつわる多くの話題が3人の講演者により報告された。
     本当に興味深いことばかり。
     特に人工鉄の初期出現が銅の生産地とこんなに密接に関わって出土したことや鉄器の価値がヒッタイト滅亡の後
     実用鉄器の出現とともに大幅に変化し、四方へ急速に伝播してゆくことにも興味をひかれました。
     今回の講演会の報告概要を3氏講演や予稿集より図面等を使わせていただき概要を以下に紹介します


鉄の起源と展開「金属器時代の黎明 −価値と技術-」
聴講要旨1 トルコ アナトリア・西アジアの製鉄技術年史
聴講要旨2 地中海沿岸・西アジアでのヒッタイト滅亡より古い初期鉄器の出現
聴講要旨3 未解決の課題 西アジアの青銅器文化から鉄器文化への移行の引き金はなにか??? 
聴講要旨4 銅製錬の過程での鉄塊誕生について
■ 聴講要旨 1. トルコ アナトリア・西アジアの製鉄技術年史
       定説として「人工鉄の起源はヒッタイト」云われてきたヒッタイトの滅亡は紀元前12世紀末 
       その時でも西アジアは青銅器が中心利器の時代であり、ヒッタイト滅亡後 急速に鉄器文化が展開されてゆく。
■ 聴講要旨 2. 地中海沿岸・西アジアでのヒッタイト滅亡より古い初期鉄器の出現
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一番先に鉄器が現れたのは約紀元前5000年頃 銅器は紀元前9000〜8000年。
鉄器の成分やウイッドマンステッテン急冷凝固組織から韻鉄だった。
そしてこの硬い鉄塊を磨いて加工して刀剣や装身具などに仕上げている。
下図に示した西アジアで出土した初期鉄器の分布によると注目すべき点としてアナトリアのみならず、
 イスラエルやキプロスからは出土鉄器が韻鉄なのか人工鉄なのか明確ではないが、ヒッタイト滅亡以前から鉄器が出土し、
 人工鉄が主要になるヒッタイト滅亡後も鉄器が出土。そして、これらの地が、古くからの銅の交易・生産地であるという。
 銅製錬と鉄との出会い 銅生産と鉄との関連性が注目される。
ヒッタイト滅亡後アッシリアの時代になると鉄器が利器として拡散してゆく時代を迎え、イスラエルやヨルダンで製鉄跡も
出土するとともに、鉄器のユーラシア大陸当遷の先進地とみられる西アジア北部黒海東岸のグルジア地方でも鉄器が出土。
また、ヒッタイト滅亡後成立したアッシリアがイスラエルやキプロスを含む地中海沿岸諸国から鉄を献納させてきたという

■ 聴講要旨 3. 未解決の課題 西アジアの青銅器文化から鉄器文化への移行の引き金はなにか???

ヒッタイト以前から銅の交易・生産地で鉄器が出現していたことから、定説として云われてきたヒッタイトの鉄製錬技術独占し、ヒッタイト滅亡によって世界各地に鉄器が拡散したという構図が崩れる。
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では 何が青銅器から鉄器文化への移行の引き金になったのか・・・・・
現状 まだ この答えは不明であるが、鉄器の事情と云うより、むしろ銅器の生産事情に何らかの問題が生じたからではないかという。この問題はまだ未解決だと聞く。

≪私の頭によぎったこと 2015.2.13. by Mutsu Nakanishi≫
私の私見ですが、すぐ頭に浮かんだのは日本での銅生産の問題。
日本では鎌倉から室町時代にかけ、日本の銅資源が枯渇し、中国等から銅銭を輸入する時代がある。
古代の銅製錬は自然銅や銅酸化物鉱石の炭素による還元製錬。

それが使いつくされると銅の酸化物鉱石から地中にある大量の硫黄を含む硫化物鉱石となり、製錬しても銅中には大量の硫黄を含み、脆くて使い物にならぬ時代に突入する。銅製錬時にこの脱硫法の確立に数百年を要したのである。
また 鎌倉大仏が中国の銅銭を素材にしていることや鎌倉時代には、多数の鉄の仏像が数多く作られたことはよく知られた事実である。
利器の中心だった銅が脆くて形にならぬとなると利器の中心素材ではいられない。西アジアでも自然銅の枯渇がこの問題に火をつけたのではないか?? そんなイメージがすぐ頭に…。
西アジアでも 日本と同じく銅の空白がおきようとしていたのだ・・・・と。

■ 聴講要旨 4. 銅製錬の過程での鉄塊誕生について

愛媛大村上恭通教授は 銅製錬過程での鉄塊の誕生について
青銅器時代の西アジアの銅生産の過程での副次的な鉄誕生についての調査報告で述べた文献記述を紹介。
そして、2014年11月岡山県新見市で地元のたたら伝承会の協力で、復元した原始銅製錬炉での鉄鉱石の添加による副次効果の実証実験を行った結果について紹介した。
≪青銅器時代西アジアの銅生産の過程での副次的な鉄誕生文献記述≫
 1. Gale, et al1990,Craddock 1995
  「銅製錬の際、生産を高めるために融点を下げる目的で投入されたフラックスが
    鉄鉱石で、その鉄分が銅塊の中に含まれたり、銅滓の中に含まれたりする。」
 2. Rothenberg 1990
  「南イスラエルのティムナ渓谷には紀元前5000年紀以降の銅製錬遺跡が多数発見
    され、その報告書は銅生産研究を大きく推進した。」
   Gale,et al
  「このティムナで生産された金属鉄はまさしく銅製錬炉で生まれたもの」
   Malkel 1990
  「ティムナ・チームの復元実験成果もそれを証明している」と記している。
≪村上教授らによる復元原始銅製錬炉での鉄鉱石の添加による副次効果の実証実験
銅鉱石のみを原料とする炉と銅鉱石・鉄鉱石の混合原料での炉の比較実験を実施。 
これにより圧倒的に銅の生産量が向上した。
これらの結果を踏まえ、鉄鉱石を投入することにより、銅製錬の生産性が上がり、
銅塊が誕生すると同時に、鉄もわずかながら生まれた。その投入比率を変えるなど、
数々 の工夫により鉄を目的的に生産できるようになったのであろう。


以上今回の講演会の報告概要を3氏講演や予稿集より 図面等を使わせていただき概要を紹介。
今回の講演会で青銅器時代の銅生産と鉄滓・小鉄塊出現とが、密接に関係していることが見えてきました。

また、鉄製錬のスタートが 仮に高温を得ることが難しかったにしろ、鉄鉱石の製錬が溶解反応でなく固相反応であった点にも
常々不思議に思ってきましたが、銅製錬の過程の副次反応として鉄の固相還元で鉄製錬が始まったとすると理解できる。

また、製錬・製鋼の鉄冶金を勉強し、溶接冶金の技術屋だった私には 何度も聞いた近くにありながら「水と油」で
互いにひっつかない「銅と鉄」。
昨年7月 大阪での村上教授の講演で初めて知った鉄の起源への銅のかかわりに、今回聞いた話を重ねています。
この「銅と鉄」の二相分離の特徴が鉄の製錬技術を生み出したのかと予想もしなかった展開に本当にびっくり。  

昨年7月話を聞いた時に 「和鉄の道・Iron Road」にまとめた鉄と銅の二相分離反応についてから、関連のある部分を下記に。

また、本当かどうかわかりませんが、
銅製錬について、かつて日本であったのと同様の自然銅の枯渇が西アジアでの青銅器から鉄器への移行を促したのか???
 
「自然銅や銅鉱石などの銅原料の還元反応による銅製錬から、その資源枯渇に伴い、地中深くにある硫黄の混じった含硫黄銅鉱石しか得られなくなり、脆い銅しかできず、銅の利器が造れなくなった時代があったのでは」と。
「この銅の脱硫反応克服への時代が西アジアでもあり、それが青銅器から鉄器への移行を促した」とのイメージがふっと頭に湧いてきた。

妄想か? それとも一理あるのか?
鉄のロマン イメージを膨らませています。

鉄の起源とユーラシア大陸を東西に繋ぐメタルロード 今年はさらにどんな展開があるのか 期待一杯。
次々とイメージを膨らましながら 真っ暗な四国路の高速道路を 松山から神戸へ帰ってきました。
毎度 新しい知見があるうれしい講演会  今回も満足いっぱいで帰ってきました。
 

                        2015.2.14.  Mutsu Nakanishi
≪聴講内容整理資料File by Mutsu Nakanishi≫
鉄の起源と展開「金属器時代の黎明 −価値と技術-」
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      【資 料】
   【整理に使わせていただいた資料】 
    
     第18回 アジア歴史研究会予稿集「金属時代の黎明-価値と技術-」 2015.2.14      . 
              愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センタ−
   【和鉄の道・Iron Road】by Mutsu Nakanishi
1.
  金属にも「水」と「油」がある  -「銅」と「鉄」の二相分離 -   2014.8.1.
  https://www.infokkkna.com/ironroad/2014htm/2014iron/14iron09.pdf
2.   国際シンポジュウム「鉄と匈奴」聴講記録  愛媛大東アジア古代鉄文化研究センター  2013.11.19.
  東西ユーラシア大陸を結ぶ金属器・鉄器文化の道《Metal Road & Iron Road》探求
  https://www.infokkkna.com/ironroad/2013htm/iron9/1311kyoudo00.htm
3.   国際シンポジューム「鉄と帝国の歴史」 愛媛大東アジア古代鉄文化研究センター聴講記録 2008.11.29.
  https://www.infokkkna.com/ironroad/2008htm/iron4/0812ehime00.htm
4.
 参考資料「ヒッタイトの鉄の謎に挑む」朝日新聞朝刊に掲載された記事 2010.8.7.
5.
 日本最古の銅山 奈良の大仏の銅を 産出した「長登銅山」を訪ねて
 「4.長登銅山の銅鉱床・銅鉱石の変遷と銅製錬技術」 
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  1503tetsunokigen00.htm   2015.3.5.  by Mutsu Nakanishi